『機動警察パトレイバー』はどんな作品?
『機動警察パトレイバー』は、ゆうきまさみ先生による作品で、レイバーと呼ばれるロボットが存在する近未来を描いた職業モノ漫画です。原作漫画は1988年から1994年まで『週刊少年サンデー』にて行われ、全22巻にわたるシリーズです。
特筆すべきは最初からメディアミックス展開を目的として制作され、最初のOVA発売と漫画作品の掲載がほぼ同時期に開始されています。その後の展開はご存知の方も多いかと思いますが、OVA2シリーズ、劇場版作品3作、TVシリーズ、小説、実写映像作品などが制作され、2026年にはPATLABOR EZYプロジェクトの始動が予定されているなど、今なお広がりを見せている作品です。
この作品は、特車二課と呼ばれる警察組織に所属する面々の日常を描きながら、レイバーと呼ばれる機動ロボットがもたらす社会的な問題や技術的な課題に切り込みつつ、会社組織でありながら自らの趣味のためにレイバーで破壊活動を行う内海課長率いる「企画7課」との戦いを主軸に話は展開していきます。
学生だった私は、サンデーに掲載されていた原作漫画を追い、OVAもレンタルビデオで借りて漫画との違いを探しつつ、劇場版を見て内容について考察するといった、今となってはマンガ・アニメオタクとなる一因を作った作品といえるかもしれません。
『パトレイバー』の地続きな世界観とリアルな設定
はたらくロボット「レイバー」のリアルさと先見性
『機動警察パトレイバー』の物語は、近未来の日本を舞台に、特車二課という警察の特殊部隊を中心に展開されます。この世界では、「レイバー」と呼ばれる巨大な機動ロボットがさまざまな産業で使用されており、それに伴う犯罪や事故も増加しています。特車二課は、これらのレイバー犯罪に対処するために設立された部隊です。
近未来と書いてますが、80年代後半に連載開始されたこともあり、作中の設定は1998年から始まります。当時から見てもそこで描かれる世界はそれほど未来的ではなく、バビロンプロジェクトという世紀末的なプロジェクトが進行していたり、設定として電線が地中に埋められているなどの違いはあるものの、今に至っても現実と地続きな世界観で表現されています。
そんな遠くない未来に開発され、この作品の大きな特徴となっている「レイバー」というロボット自体は、主人公泉野明の駆る「イングラム」こそかっこいいフォルムをしているものの、その他の機体はブルドーザーやユンボなどの土木機械の延長ともいえる見た目をしており、いずれ訪れる本当の意味での「近い未来」の機械として描かれています。
また、それらのレイバーが犯罪で使われることを想定してのカウンターとして警察組織がレイバーを導入するというのもあり得る話で、昨今でもサイバー犯罪の増加で警察がサイバー犯罪専門チームを対策を強化する流れとも合致しています。
ロボットものではとにかくカッコいい見た目で戦うというのが定番でしたが、工業用としてロボットが普通に存在する現実的な風景を描くのが当作品の魅力の一つとなっています。
昨今ではレイバーっぽい作業機械が開発・活用されており、作者のゆうきまさみ先生も見物に訪れる1など、30年以上経過した現代になって「レイバー」という存在の先見性に驚かされます。
職業モノ漫画のはしり?他作品にも影響を与えたリアルな設定
警察がレイバーを導入し設立されたのが警視庁特車二課ですが、南雲隊長率いる第一小隊は精鋭揃いなのに対し、主人公泉野明が所属する第二小隊は個性豊かなメンバーが集う部隊として描かれています。
泉野明や篠原遊馬は、学生時代の延長のような雰囲気を持ち、明るく軽妙なキャラクターです。また、第二小隊には他の部署では活躍の場を得られなかった個性派の人材が集まっており、それぞれの個性が光るストーリー展開が魅力です。隊長である後藤隊長も、普段は昼行灯と言われるような気の抜けた態度を見せながら、実際は「切れすぎた」ために左遷されたとされるほどの切れ者です。その後藤隊長が「ライトスタッフ(正しい資質)」と評するほど、第二小隊のメンバーは独特の魅力を持っています。
このように特徴的な面々が登場する当作品ですが、警察という組織の職業的な一面も垣間見えるのも魅力です。いわゆるお固い警察官というイメージは第二小隊の面々にはあまり無く、あくまで給料をもらえるお仕事として公務員の職務をこなす姿を描いてるところはリアルな職業モノといっても良いです。
この特徴は、本広克行監督の『踊る大捜査線』にも影響を与えている2と言われており、多くの共通点があるのが見受けられます。興味ある方は見比べてみてもよいかも知れません。
特車二課の魅力溢れるメンバーたち
ここで『機動警察パトレイバー』の主要な登場人物を紹介しておきます。
泉 野明
本作の主人公である泉野明は、明るく前向きで、何事にも真摯に取り組む性格が特徴。レイバーの操縦技術に優れ、特車二課のムードメーカーとしての役割も果たしている。その無邪気で純粋な姿勢が、物語全体を明るくしています。
彼女の成長過程は作品の大きな見どころの一つであり、視聴者や読者が共感しやすいキャラクターでもあります。レイバーに対する情熱や正義感は、特車二課全体の士気を高める原動力となっています。
アニメではサザエさんのカツオの声でも有名な富永みーなさんが演じており、ゆうき作品は「究極超人あ〜る」の堀川椎子役(ドラマCD)からの付き合い。
篠原 遊馬
野明とペアを組む同僚で、知識重視型の理論派キャラクター。冷静な判断力を持ちながら、野明との掛け合いではコミカルな一面も見せ、物語に軽やかさを加える。レイバー開発を主戦力とする篠原工業社長の一人息子でその家庭背景や過去も物語の中で描かれる。劇場版一作目では彼の活躍(暴走?)で事件が解決したと言っても過言ではない。
後藤 喜一
特車二課の隊長で、飄々とした言動と常に冷静な態度で隊員たちをまとめている。一見するとやる気のない態度だが、いざというときに的確な指揮を執る姿は頼りがいがあります。彼の飄々とした性格は多くの読者から愛されており、私の最も好きなキャラクターでもあります。
劇場版第二作では彼の哲学的な考え方や鋭い洞察力がうかがえるとともに、彼が「カミソリ後藤」と呼ばれていた頃を思わせる活躍が存分に描かれており、後藤隊長ファンには是非見ていただきたい作品です。
企画7課
また、漫画版では敵役として登場する多国籍企業「シャフト・エンタープライズ」の企画7課の面々もかなり個性的かつ魅力的なキャラクターばかりです。
仲でも私が後藤隊長と同じく好きなキャラクターの一人である、企画7課のボスである内海課長は、後藤隊長と同じく切れ者でありながら、自身の楽しみのためにライバルレイバーである「グリフォン」で破壊活動を行うなど、「手段のためには目的を選ばない」姿勢が、犯罪者でありながら魅力的なところとして描かれています。
その他にも、脇役もそれぞれの個性が際立ったキャラクターが登場し作品を彩ります。ゆうき先生の描くキャラクターは人間味が溢れているとともにその背景を感じさせ、どの一人を持ってしてもスピンオフが書けそうな一人ひとりの奥行きが深いのが特徴です。
メディアミックス展開とその影響
ヘッドギアとは?
「機動警察パトレイバー」のメディアミックス展開を目的として結成されたのが、ゆうきまさみ(マンガ家)、出渕裕(アニメクリエイター)、伊藤和典(脚本家)、高田明美(イラストレーター)、押井守(映画監督)からなる原作者集団「ヘッドギア」です。
多くの映像作品と違い、パトレイバーにはいわゆる「原作」というものは存在せず、この5人でプロットや背景、キャラクターなどの構想を固め、アニメや漫画などのメディアに展開する方式を用いてます。そのため基本設定は変わらず、それぞれのメディアで別のストーリー展開をしている点もこの作品のポイントです。
様々なメディアで展開する「パトレイバー」作品
ヘッドギアの5人が作った基本設定を元に様々なメディアに展開するパトレイバーですが、時間軸が同じとするシリーズがいくつかあります。
大まかには、初期OVA→劇場版、TVシリーズ→NEW OVA、漫画版と分かれており、それぞれ独自のストーリー展開をしています。
・OVAシリーズ
1988年に発売された初期OVAは現在は「アーリーデイズ」と副題が付けられています。パトレイバーの始まりというべきシリーズで、漫画とは違う展開で設定は後の劇場版にも引き継がれています。
1990年に発売されたNEW OVAはTVシリーズの延長としてグリフォン編の完結が描かれています。
・劇場版
劇場版は三作制作されています。
特に第一作と第二作は押井守監督の手によって制作されたこともあってか、漫画版よりも社会的・政治的なテーマが強調され、よりシリアスでスケールの大きい物語が展開されており、現在でも評価が高い作品となっています。
劇場第一作目は当時としてもあまり注目されていなかったコンピューターウィルスによるサイバー犯罪をテーマにした作品として高い評価を得ており、今見てもその先見性と完成度に驚かされます。
また二作目では、平和に慣れすぎてしまった日本という国の問題をテーマにしつつ、ふとしたバランスでその平和が崩れてしまう様が描かれており、この国のあり様について考えさせられる内容となっています。
三作目は漫画版の廃棄物13号編がベースになった作品で、ゆうき先生いわくTVシリーズの時間軸3とのこと。
・テレビアニメシリーズ
テレビシリーズでは全47話で放映され、より幅広い層に楽しめるようなエピソードが多く、コメディからシリアスまでバランスよく展開されました。これにより、作品の間口が広がり、幅広い年代に支持される結果となりました。
アーリーデイズ・劇場版、また漫画版とも違う時間軸で描かれてますが、3期からは漫画版のストーリーである「グリフォン編」が始まります。
『機動警察パトレイバー』のまとめ
『機動警察パトレイバー』は、そこまで遠くない未来における技術の発展と、それが引き起こす問題を、ユーモアとシリアスの両面から描いた名作です。その地続きな設定やストーリー、職業モノとしてのリアリティやコミカルでありつつも深みのあるキャラクター描写などが、多くのファンに愛され続ける理由の一つです。また、レイバーという設定が示す未来の可能性やそれらが引き起こす課題は、現代にも通じる示唆に富んでいます。
また多彩なメディア展開によって、それぞれの媒体で異なる視点が楽しめる点も魅力です。漫画、アニメ、劇場版といった多角的なアプローチが作品の世界観を広げ、幅広い世代の支持を集めてきました。
今なお進化を続ける『パトレイバー』は、SF好き、ロボットものが好きな人、そして職業モノ漫画が好きな方におすすめできる作品となっています。
オススメの読者層
- SFやロボットアニメが好きな人
- 30代以上の原作ファン
- 社会問題を描くストーリーを楽しみたい人
- 職業モノ作品が好きな人
『機動警察パトレイバー』が好きな人にオススメ
- 『攻殻機動隊』(士郎正宗): 未来を舞台にしたSF作品です。テクノロジーが進歩した世界で起こる様々な問題を描いています。
- 『プラネテス』(幸村誠): 宇宙を舞台にした職業もの。現実味のある描写と社会的テーマが特徴で、『パトレイバー』と共通する要素が多いです。
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(モーニングコミックス)
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